『釧路新書』を読んで釧路の魅力を再発見しよう!

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図書館や書店に並んでいる『釧路新書』をご存じですか? 釧路湿原や石川啄木など、釧路ゆかりのテーマを取り上げたこのシリーズには、釧路愛あふれる人々の思いが込められています。

この新書の編集などに関わり、自身5冊の著作があるのが、市史編さん事務局や地域史料室を経て、今春まで釧路短期大学教授だった佐藤宥紹(ひろつぐ)さんです。佐藤さんは釧路地域史の専門家として知られ、この3月までFMくしろで「釧路歴史探訪」という番組を担当していました。今回、『釧路新書』の成り立ちとその魅力を聞きに取材に伺いました。

――『釧路新書』はどうして生まれたんですか?

佐藤 『釧路新書』の発刊は昭和52年9月です。前年3月で『新釧路市史』(全4巻)を出版する事業が終了し、そこで担当部局は解散するはずでしたが、そのまま組織は存続し、新しく課長に就任した布施正さんが『釧路叢書(くしろそうしょ)』や釧路市史編さんのポスト事業として考えたようです。

――すでに『釧路叢書』というシリーズが第15巻まで刊行されていたんですよね。

佐藤 昭和35年当時の山本武雄市長が文化活動に理解のある方で、彼の発案で同じ年の12月に『釧路叢書』が創刊されます。山本市長自身も随筆家で知られていたし、第一助役は歌人、第二助役も36歳と若いけれど英文学に通じた方でした。そして実際の業務は図書館のスタッフだった鳥居省三さんが担っていました。

――鳥居さんと言ったら、原田康子さんの『挽歌』を生んだ『北海文学』の主宰者。まさに釧路文化人のレジェンドのひとりでしたよね?

佐藤 彼の存在なくして『釧路叢書』は続かなかったでしょう。鳥居さんが図書館長になって次々と書き手を発掘しましたからね。自身がまとめた『釧路文学運動史 昭和篇』はそうした経緯が垣間見える力作です。

その後、『新釧路市史』の編さん事務局に『釧路叢書』は引き継がれますが、鳥居さんは両方の仕事に関わっていたし、昭和46年からは釧路空襲の記録をまとめる仕事にも参加しています。

――ただ『釧路叢書』を拝見しましたが、ちょっと手を出しにくいというか、専門的な内容のものが多いような・・・

佐藤 編集方針は、①「地域」の人が、②「地域」の事を調べ、③「地域」で出版・発行する、という3つの「地域」にこだわったんです。しかし、当初は鳥居という傑出した才能がいたからできたという面もあり、その後は個人でなく、職域団体や専門組織が本をまとめるケースが増え、一般の方には馴染みにくいものになって来たのは否めません。そこで、もっとわかりやすく、教育的な書物を別に作ろうということで『新書』が生まれたんです。

――確かに新書スタイルの方が読みやすそうですよね(笑)

佐藤 新書を創刊する時に、「これはお金を払って買ってもらう本なんだから、作る側も”公務”ではなく、年齢や経験に捉われず、言いたいことは言い合ってしっかりしたものを作らなければいけない」と、布施課長に発破をかけられました(笑)。おかげで読者のすそ野も広がり、テーマも身近なものになってきましたね。

――自治体独自で出版を続けてきたというのは珍しいことではないですか?

佐藤 『釧路叢書』と『釧路新書』などを合わせると、すでに70数冊を数えるほどになりましたが、地方都市でこれだけの出版活動をしている町はそうはないと思います。振り返って、鳥居省三や新書の1号目の『東北海道物語』を書いた布施正をはじめ、多くの偉才が切り開いた道は、我々釧路人の誇りですね。

今回、佐藤さんには、『釧路新書』の中から、「釧路の歴史を学ぶための3冊」と「釧路の魅力を知る必読の3冊」を選んでいただきました。新たな学びの機会にするのもいいし、家族や釧路に遊びに来たいと思っている友人に勧められるのもいいと思います。

釧路をもっと知りたい人のための「歴史」から学ぶオススメの3冊

  • 『東北海道物語』(布施 正著) 770円

札幌や函館が主役の「北海道史」ではない、道東の視点で書かれた初めての「東北海道史」。ロシアとの矢面に立っていた江戸末期から、明治になって鉄道や港湾が建設され、農業、漁業、林業、製紙、炭鉱などの基幹産業が成立していく過程が分かりやすくまとめられ、道東の歴史を学ぶなら必読の一冊です。

  • 『釧路歴史散歩 上・下』(佐藤 尚著) 上/639円、下/534円

開拓の経緯と釧路の成り立ちを、上巻は明治維新から明治30年代、下巻は「出稼ぎ者の町」から「道東の拠点都市」に変貌していく昭和初期までを描いています。史跡をめぐって町歩きするのに最適なガイド本。

  • 『街角の百年』(釧路市地域史料室編) 770円

貴重な古い絵図や絵はがきを元に、釧路の中心市街地となった北大通りや幣前橋周辺の街並みと移り変わりを解説。古き良き釧路を懐かしむことができる「時代のアルバム」です。

釧路の魅力を満喫するために読んでおきたい自然&文学の3冊

  • 『釧路川紀行』(佐藤 尚著) 534円

屈斜路湖、弟子屈、標茶、塘路、遠矢などの川べりの町々をたどりながら、長さ120㎞に及ぶ釧路川とともに歩んできたアイヌや開拓民に思いをはせる好著です。

  • 『新版 釧路湿原』(釧路市地域史料室編) 770円

水生植物や昆虫、魚、そしてタンチョウヅルなど、湿原の生き物たちの生態を知ることで釧路湿原の奥深さに触れることができます。自然観察に行く前に読んでおけば楽しさ倍増。

  • 『増補・石川啄木』(鳥居省三著、北畠立朴補注) 700円+税

新書で一番人気と言えばこの1冊。釧路を訪ねた天才歌人の一生を、釧路文学の育ての親ともいえる鳥居省三が見事に活写しています。啄木ファンならずともぜひ手に取りたい1冊です。

*『釧路新書』は市内図書館で読めるほか、図書館や各書店、役場で販売もしています。『石川啄木』以外は税込み価格です。

reported by CURVY

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